相合傘


ある日の夕方、朝から晴れていた空が嘘のように暗い雲に覆われ、雨が降ってきた。
雨はそのまま本降りになっていった。

「らんるちゃん、大丈夫かな?」

店に入り口から顔を覗かせ外を見ていた凌駕が呟く。

らんるは午後から私用で出かけてしまっていた。その時はまだ青空が見えていた為、傘を持たずに出ていた。

凌駕の言葉に小さく反応したのが、食器を片付けていた幸人だった。

凌駕は入り口をパタンと閉め、カウンター越しに幸人の背中に

「三条さん、らんるちゃん大丈夫かな?」
「あいつの事だから、そこらで傘を買って帰ってくる」
「ああ、そうですね」
「夜の営業を始めるぞ、凌駕」
「わっかりました」

と夜の営業を始めたものの、雨の影響で客はほとんど来ない。
しばらくして、幸人が凌駕達に口を開く。

「・・・ちょっと出かけてくる。お前達で大丈夫だよな・・・」
「えっ?ああ、大丈夫ですよ」

幸人は傘を一本だけ持って店の入り口から出て行く。

凌駕は出て行く幸人に笑顔で手を振りながら

「いってらっしゃい」

アスカは不思議そうな顔で凌駕に話し掛ける。

「凌駕さん、幸人さんはどこにいかれるのですか?」

凌駕はくすくすと笑いながら

「お姫様のお迎えですよ」

アスカは凌駕のその言葉にますます不思議そうな顔をする。

「お姫様ですか?」

「そうですよ。三条さんのお姫様です。三条さんも素直に『迎えに行く』って言えば良いのに・・・」

凌駕はそういい残すと調理場の中にいってしまう。取り残されたアスカは凌駕が言った
『お姫様』がらんるとは思うはずもなく、頭の上にクエスチョンマークを浮かべながら
凌駕の後を追い駆けた。

らんるは駅で雨宿りしていた。傘を買って店に戻ろうとしたが、
突然の雨で売っている傘は売り切れてしまっていた。
らんるはタクシーで帰る距離でもないなと思い、濡れていくのを覚悟で帰ろうとした時

「らんる」

後ろから声が掛かり、らんるは振り返る。そこには傘を差した幸人が立っていた。

「あ、幸人さん。どうしたの」
「・・・用事があってこっちにきたんだ。・・・・その・・・入っていくか?」

幸人は照れくさそうにらんるを見る。らんるは笑顔で

「うん。良かった」

らんるは幸人の傘に入る。幸人はらんるが自分の傘に入ったの確認すると恐竜やの方へと歩き始めた。

少し歩いて、らんるは自分の方を見ない幸人に

「お店は?」
「・・・凌駕達がやってる」
「じゃあ、私を迎えにきてくれたんだ」
「ちっちがう・・・俺はただ用事があって・・・」

幸人は慌ててらんるの言葉を否定する。らんるは何時もとは違う幸人を見て小さく笑い

「じゃあ、少し遠回りして帰ろ」

と幸人の傘を持っている腕に自分の腕を絡め、身体を寄せる。幸人はらんるの体温を心地よく感じながら

「・・・ああ・・・」

と優しい笑顔で答える。そして2人はいつもと違う道を楽しむかのように店へと戻る。


2人が戻る頃、凌駕達は店の営業を終え、幸人達が戻るのを待っていた。
らんるが扉を開くと凌駕とアスカは

「お帰りなさい」

と笑顔で2人を迎えた。凌駕はらんるにタオルを渡し、その次に幸人に渡した。
その時、凌駕は幸人にニコニコしながら聞いた。

「迎えにいったんですよね」
「・・・たまたま駅で雨宿りしているらんるを見かけたから、入れてきただけだ・・・」

幸人は凌駕から顔をそむけそう呟く。

「そうですか・・・」

凌駕は『そんな事いってもわかってますよ』見たいな顔で幸人を見ていた。

アスカは服を拭いていたらんるに暖かいコーヒーを渡しながら2人の会話を聞いて、思いついたように凌駕に言った。

「凌駕さん、幸人さんの『お姫様』ってらんるさんのことだったんですね・・・
 やっとわかりました・・・・」

凌駕はアスカの言葉に笑顔で大きく頷く・・・しかし隣から嫌な視線を感じ、その笑顔も凍りつく・・・。

「・・・凌駕、アスカに何を教えた・・・」
「え、いえ、はは・・さっき三条さんが出掛ける時アスカさんに『お姫様』を迎えに行くんだって・・・」
「・・・・お前な・・・・」

2人のやり取りを笑顔で見ていたらんるはコーヒーを飲みながら心の中で呟いた。

『ありがとう、幸人さん。あっ、今日は雨に感謝かな』


べたなネタですが、こういうのが面白い(笑)
私が書く幸人さんは素直になれません