出会い
ここは樹藩の城下町。
二人の若侍が必死に叫びながら町中を駆け回っていた。
「「らんる様〜!!」」
別れて捜していた若侍が落ち合うと大きなため息をつく。
「いましたか?凌駕さん」
「いいえ、どこにも・・・」
「まったく姫様と来たら・・・」
「早く捜しださないと、じいやさんにしかられますよ。アスカさん」
「そうですね。今日はあの方もいらっしゃるようですし・・・」
「じゃ、俺、こっちを捜します」
「わかりました、私はこちらの方を」
凌駕とアスカはまた二手に分かれて捜し始めた。
二人がいなくなって直ぐに店の暖簾から顔を出す娘。
この娘こそ二人が捜している本人、樹藩の姫君らんるである。
普通の町民と同じような着物を着ている為、誰も姫君だとは気付かない。
「そうやすやすと見付かるものですか!!」
そう言いながららんるは店から出て再び町を歩き始める。
「今日はあいつが来るんだ、あんな奴会いたくない」
らんるはぶつぶつを小声で文句言いながら歩いていた。
しかし今度は少し油断していたか、凌駕とアスカに見付かる。
「らんる様!」
らんるはその声に振り返る。
「まずい・・・」
らんるは追いかけてくる二人から再び逃げる。
その頃、この城下町に今到着したばかりの旅装束の若者が一人。
「・・・ったく、アスカの奴、国境まで迎えに来るといっていたのに来ないじゃないか。
あいつの屋敷はどこだ」
そうぶつぶつと呟きながらきょろきょろと歩いている。
後ろから来る、運命の人を気付かずに・・・。
らんるは必死に逃げていた。
抜け道を使ってかなり二人を引き離したが油断は出来ない。
大通りをいきあう人々の間を潜り抜ける。
しかし立ち止まっている若者に気付いた時にはすでに遅く・・・・。
・・・ドン・・・
二人はぶつかってしまう。しりもちをついた状態で二人は顔を見合わせる。
「いったーい、こんな道の真ん中で立ち止まってないでよ」
「・・・っつ、走ってくるあんたが悪い」
二人は立ち上がりながらお互い謝りもせず、口げんかをはじめる。
「らんる様〜!」
遠くの方で聞こえる声にらんるは気付き、声のするほうに振り向く。
「じゃ、私急いでいるから」
「は?お、おい・・・・」
らんるはそのまま謝らずに走っていってしまった。
幸人は唖然としながら彼女の背中を見つめていた。
「ったく、なんてお転婆なんだ」
歩き出そうとした時、幸人は何か硬い物を踏む。
「・・・・なんだ?」
幸人が拾い上げるとそれは小さな鈴だった。
さっきの女がぶつかった時、落としたものだろうと思いつつ鈴をすてようとする。
が、なぜか幸人はその鈴を捨てられず、懐に入れる。
そして幸人はアスカの屋敷を捜すため再び大通りを歩き出す。
「幸人さ〜ん!!」
しばらく歩いていると背中から声がかかる。
振り向くと、アスカが疲れた様子で駆け寄ってきた。
「すいません!!迎えに行けなくて」
「まったくだ!おかげで大変な目にあったぞ」
「大変な目って?」
「・・・・まあ、いい。お前こそどうしたんだ?」
「いえ、少し、城内でいろいろとありまして・・・」
アスカはらんるがいなくった事など正直に言えず言葉を濁す。
「あっ、早速ですが、これから登城していただきます。
杉下様がお会いしたいそうなので・・・」
「かまわないが・・・。その杉下というのは?」
「姫様のじいやさんです。このお城のことを仕切っておられます」
「ほう・・・・」
「それからですね・・・・」
アスカはいろいろと藩のことなどを教えながら幸人を城を連れて行った。
城に着くと幸人はさほど広くない部屋に通される。
アスカに聞くとそこは姫君の部屋だと教えてくれた。
そこにはすでに先ほどアスカが話していた杉下らしき老人と隣には若い娘が座っていた。
アスカは杉下とは向かい側にもう一人の若者凌駕の隣に座る。
「三条幸人殿じゃな?私が杉下じゃ。らんる姫様のお側に仕えておる。
隣にいるのは私の孫娘の笑里じゃ。姫のお世話をさせていただいておる。
アスカ君のことは良く知っているな。
彼の隣にいるのが凌駕君でアスカ君と一緒に姫をお守りしている」
杉下に紹介された笑里・凌駕はそれぞれ幸人に深々とお辞儀をする。
返すように幸人もお辞儀をする。
「そなたが呼ばれたのは、藩医兼らんる姫の教育係になってほしいからじゃ。
なにせ、我ら城内の者は世情に疎い。幸人殿ならアスカ君から推薦もあって・・・」
幸人はなるほど思う。
自分は長崎の出島で開業していて、外国人の客も多かった。
他の人物よりは世情や世界の事を知ってる。それを踏まえて呼ばれたのだ。
「アスカ君、凌駕君。らんる姫はまだかな?」
杉下は向かいに座っている二人に尋ねる。
「えっと・・・その・・・」
二人は顔を見合わせて答えるが歯切れが悪い。
「どうしたんじゃ?姫様は!」
杉下の問いかけにアスカと凌駕はどうにもならないと思い謝ろうとした瞬間
「私ははここにいます」
鮮やかな山吹色の内掛けを着たらんるが座敷に入ると、その場が華やぐ。
らんるは二人を視線を送りそのまま腰を降ろす。
見られた二人はほっとした表情で肩をなでおろす。
「やっと来られましたな。姫様、この者が先日お話した三条幸人殿です」
「らんるじゃ、面をあげよ」
幸人はらんるの声が聞こえた時下げていた頭を上げる。
二人の顔があった瞬間
「「あっ」」
二人は思わず声を上げる。
「あなたは・・・」
「あんたは・・・」
杉下は二人の言葉に不審に思い、らんるに尋ねる。
「ご存知であったか?」
「いや、初めて会う顔じゃ」
その言葉に我に返ったらんるは引き攣った笑いを浮かべ答える。
「いいや、俺はさっき・・・」
「アスカ、三条殿を早くお部屋に案内を・・・」」
らんるは幸人の言葉をかき消すかのようにアスカに言う。
「はっ、では幸人さん行きましょうか?」
アスカは不審がる幸人を連れて部屋を出ようと席を立とうとした時
閉められていた障子が勢いよく開く。
「やあ、らんる姫。来たぜ」
その声を聞いてらんると彼を誰だかわからない幸人以外は皆頭を下げる。
らんるの表情が一気に曇ったのを幸人は見逃さなかった。
「相変わらず、美しいな」
誰が聞いても虫唾が走る台詞を言いながら俯いていたらんるの顎を持ち上げる。
「壬琴様、皆がおります。おやめください」
らんるは壬琴の手を振り払おうとするが、簡単にあしらわれてしまう。
「そういう気の強いところがまたいい」
今度は人目をはばからずにらんるを抱きしめようとする。
「おやめ下さい」
「別に知らない仲ではあるまいし」
さすがに他の皆も苦虫をつぶしたような顔で壬琴を見る。
必死抵抗しているらんるを誰も助けることが出来ない。
「やめろ、姫が嫌がってるじゃないか」
そう口を開いたのは幸人だった。
好きとかの感情じゃなかった。ただ、嫌がるらんるを見るに見かねてだった。
皆は驚きの表情で幸人を見る。
壬琴は抱きしめようとしていた手を止め、幸人を見る。
らんるはほっとした表情で乱れた襟元を調える。
「誰だこいつ」
「三条幸人殿です。この藩の藩医で私の教育係です」
幸人は壬琴にお辞儀をすることなく、壬琴を睨む。
壬琴は凍りつくような冷たい笑顔を浮かべ幸人を見下ろす。
「ふっ、面白い。そうすると俺もこれからこいつに世話になるわけだ。
俺は仲代壬琴だ。このらんる姫の許婚だ」
お互い視線を外さない。緊迫した空気が流れる。
「壬琴さま〜!!」
甘えた声が部屋中に響く。
白地に水色の大きな花の模様が入った内掛けを着た少女が侍女を従え部屋に入ってくる。
「なんだ、リジェルか」
「壬琴さま、お姉さまのところにいないで私のお部屋に行きましょう」
「はしたないわよ、リジェル」
「うるさいわね、お姉さま。壬琴さまは絶対に渡さないから・・・・
ね、行きましょ」
「ああ、わかった。お子ちゃまの相手が終わったらまたくるぜ、らんる姫」
「お子ちゃまじゃないわよ、壬琴さま。行きましょ、マホロ」
壬琴はリジェルに手を引かれ部屋を出て行った。
お付きの侍女も深々と頭を下げて後について行った。
後ろ姿を見送ったらんるはこめかみを押させる。
「疲れました。少し休みます。アスカ、三条殿を部屋に案内を」
「はっ、では幸人さん行きましょう」
二人はお辞儀をすると部屋を出て行った。
部屋へ行く途中、幸人はアスカに尋ねる。
「アスカ、後から入ってきたのは・・・」
「ああ、リジェル姫です。ご側室のお子様でらんる様の御妹君です」
「・・・・あの姫の侍女がお前の・・・」
「ええ、マホロです。同じ城にいながらなかなか逢うことが出来ませんが・・・・」
アスカは寂しげな笑顔を浮かべながら答えた。
そしてアスカは立ち止まると障子を開ける。
「ここです。では、ごゆるりと・・・」
そういい残すとアスカは去っていった。
部屋の中に入った幸人はごろりと横になる。
「・・・・ったく、とんでもない所に来てしまった・・・」
幸人はそのまま旅の疲れもあってそのまま眠りについてしまった。
第一弾です。
とりあえず舞ちゃん以外は出せたかしら