お江戸物語(仮)〜未遂〜
お江戸物語(仮)〜未遂〜
楽しそうに舞と話しているらんるに城に戻るまで何事も起きなければいいと思う。
そう思いながらじっとらんるを見ていた。
「考え事?」
その声に我に返った幸人が見上げるとお茶と団子が乗ったお盆を持ったプテラが
笑顔で立っていた。
「・・・ああ」
「何を考えているかわからないけど、私の団子食べればいい考えも浮かぶプラ」
「・・・そうだな」
幸人は差し出された団子を手に取ると口に入れる。
「うまいな」
「でしょ!!」
らんるは幸人の言葉に嬉しそうに答え、自分も食べ始めた。
「こんにちは、プテラ」
その声に食べていた3人は一斉に暖簾の方に視線を向ける。
そこには身なりがよく体格のいい初老の男と舞より2歳か3歳上であろう丁稚が入ってきた。
「あら、ブラキオ屋の旦那さん」
「久しぶりにあんたの団子が食べたくなったブラ」
「直ぐに持ってくるプラ。待っててプラね」
「そうするブラ」
プテラが店の奥に団子を取りに姿を消すとブラキオはらんるの方に近づく。
幸人はそのプラキオの行動に身構える。
近くまで来ると軽く頭を下げ小声でらんるに話しかける。
「これは姫様。ご機嫌麗しゅうブラ」
「ええ、でもここではそれはなし。らんるでいいわ」
「はい、わかりました。なぜらんる様がここに?」
「お忍びで遊びに来てるの」
「それはそれは・・・」
ブラキオは小さく笑うと幸人の方に視線を向ける。
「らんる様。こちらの方は?」
「えっと、三条幸人殿です。先日から私の教育係りをお願いしてます。
それにお医者様でもあるのよ」
ブラキオは今度は幸人の方に近づき頭を下げる。
「お初にお目にかかります。近くで薬種問屋を営んでいます、ブラキオ屋の主人でございますブラ。
こちらは丁稚のケラトです。以後お見知りおきをブラ・・・」
「ああ、三条だ。よろしく頼む」
幸人は丁稚のケラトに視線を向けるとケラトは慌てて頭を下げる。
「あんたはらんるの事・・・」
「ええ、藩に出入りさせていただいておりますので・・・
アスカの親代わりですので・・・いろいろと相談は受けておりますブラ」
幸人は一目見てブラキオ屋は信頼置ける男だと思った。
しかし、やはり聞きなれない言葉にブラキオ屋に尋ねる。
「あんたも異国から来たのか?」
「・・・そうですブラ。この子もですブラ」
「・・・ケラトといったか・・・」
「はいですケラ」
そこにプテラが団子を包んだ物を持って店の奥から戻ってくる。
「遅くなってごめんプラ」
「いいんだブラ」
プテラはケラトに包みを渡すとらんるの方に振り返る。
「らんる!この先の神社で縁日がやってるプラよ」
「ほんと!?行きたい」
「舞も行きたい!!」
らんると舞は立ち上がると幸人をちらりと見る。
「ねぇ〜 幸人さん・・・」
「だめだ」
「「どうして?」」
らんると舞は膨れっ面で幸人を恨めしそうに見る。
「迷子になったらどうする?」
「絶対、離れないから・・・」
「だめだ」
「も〜 幸人さんの意地悪」
らんるはうんと言わない幸人に腹を立てそっぽを向いてしまう。
「いいわよ、舞ちゃんと二人で行くから・・・」
「おっ、おい・・」
らんるは舞の手を取り、店を出ようとする。しかしブラキオ屋にそれは阻まれてしまう。
「ブラキオ、どいて」
「いいえ、どかないブラ。私がご一緒しましょうブラ。それならいいですブラか?」
「・・・・ああ、しょうがない」
嬉しそうにらんる達はブラキオと一緒に幸人よりも先に店を出た。
幸人も後を追うように店を出ようとするとプテラに声をかけられる。
「らんる、今日はとても楽しそうプラ・・・」
「いつもは違うのか?」
「ええ、いつもはもっと険しい顔してるプラ・・・。
きっと今日は幸人さんといるからプラね・・・」
「・・・・・・」
「幸人さん、らんるを守ってあげてね」
「・・・・必ず」
幸人はプテラに手を軽く上げ、店を出て行った。
らんる・舞・ケラトは、幸人とブラキオの前を歩いていた。
目を離さないようにらんるを見ていた幸人は一緒に歩くブラキオに話しかけられる。
「大丈夫ブラ。姫様は無茶な事はしないブラ」
「ならいいんだが・・・少し不穏な動きがあってな」
「仲代壬琴ブラ?」
「・・・なぜそれを」
何も知らないのはずの商人が核心突いてきて幸人は驚く。
「私たちは実は樹藩のお庭番ブラ。普段はこのように町人の姿をしていますブラ」
「そうだったのか、しかしなぜ・・・」
「アスカから話は聞いておりましたブラ。それでわざと今日はらんる様に近づいたのです」
「らんるはこのことは・・・」
「いいえ、姫様はご存知ありません。そういうことは嫌がる方ですからブラ。
プテラやティラノ・・それにあのケラトも忍びブラ。みんな姫様と知っているブラ」
「さっき、らんるは知らないと・・・」
「そういう風にフリをさせているブラ」
ブラキオと話しているうちに幸人はらんるを見失う。
「しまった・・・・」
幸人は人込みの中を掻き分け走っていった。
らんるは縁日の中を舞とケラトと一緒に歩いている・・・・はずだった。
しかし、子供と大人では歩く速度が違う。歩いているうちにはぐれてしまったいた。
それに気付いていないらんるはかんざしが売っている出店に立ち止まる。
「ねぇ、舞ちゃんこれかわいいね・・・」
らんるは傍らにいたはずの舞に話しかけようと見るがそこには舞の姿はない。
「あれ、舞ちゃん?」
らんるは舞達を捜す為、また歩き出した。
幸人は縁日の中をらんる達を捜していた。
「らんる!!」
しばらくすると幸人は舞とケラト見つける。
「幸人さ〜ん」
「舞、ケラト。らんるはどうした」
「それがらんるちゃん、どんどん歩いて行っちゃって・・・」
舞は半泣きで幸人の質問に答える。
「泣かなくていい。俺が捜す。
このまままっすぐ行くとブラキオがいる。ケラト、舞を連れて行けるな。まかせたぞ」
「はいですケラ。お気をつけて」
幸人はケラトの言葉ににっこりと笑い、縁日の中を走っていった。
らんるは舞達を捜しているうちに神社の裏まで来てしまった。
そこは縁日から離れ、薄暗く静かだった。
「舞ちゃーん、ケラト・・・いるわけないか・・・」
らんるは元着た道を戻ろうとした時、突然忍びの者が現れる。
「だれ!?私を樹藩の姫と知っての狼藉か」
らんるは身構え、帯のところにいつもさしている懐刀のところに手を持っていくが
今は町娘の格好をしている為懐刀がない。
「まずい・・・・」
にじり寄る忍びに追いつめられ、後ろには大木があり、もうこれ以上下がれない。
忍びの刀が振り上げられ、らんるは死を覚悟し目をぎゅっと閉じる。
「もうだめ・・・」
・・・・カシャ・・・・
刀がぶつかり合う音がらんるの耳に入る。
目をそっと開けると、幸人が自分の前に立ち、刀で忍びの刀を受けていた。
「幸人さん!!」
「大丈夫か!らんる!」
幸人はらんるをチラッと見ると刀を持ち上げ忍びの刀を払う。
幸人はらんるをかばいながら刀を構え、間合いを詰められないように動いていた。
「誰だ、お前は」
「・・・・・・」
「誰の配下の者だ」
「・・・・・・」
何も答えない忍びは再びにじり寄る。
緊迫した空気があたりを包む。
「待て!!私たちが相手だ!!」
叫びながらアスカ達が走って幸人たちに近づいてくるのに気付くと忍びはすばやく逃げてしまう。
アスカ達はそのまま逃げた忍びを追いかけていった。
らんるはその場に座り込んで呆然としてしまう。
それに気付いた幸人は刀を鞘にしまい、らんるの両腕を持つ。
「大丈夫だったか・・・・」
幸人の言葉に我に返ったらんるは目に涙を溜めていた。
「・・・怖かったよ・・・・」
「もう大丈夫だ・・・」
幸人の言葉にらんるは幸人の抱きつき堰を切ったように泣き出した。
忍びを追いかけていたアスカ達が戻り、ブラキオ達もらんるのところへ駆けつけた。
ブラキオはらんるが泣いている姿を見てこのままでは城には戻せないと思った。
「私の店に行きましょう」
「それがいいな・・・姫様立てますか?」
「・・・・ええ、三条殿」
幸人の”姫様”の言葉に自分達だけではないことは認識できる。
ただ、あまりの恐怖だったのだろう、立てることは出来るがふらふらとしていた。
倒れそうになるらんるをとっさに支える幸人。
幸人を見るらんるの顔は青ざめていた。
「・・・・すまぬ」
「いえ、失礼します」
そう言うとらんるを抱きかかえる。
「・・・放せ、三条殿」
「いえ、医者として今の状態では歩かせるわけにはいきません」
幸人は真剣な顔でらんるに言うとそのままブラキオの店に向かって歩き始めた。
着物を脱ぎ襦袢姿で寝ているらんる。
傍らには彼女を医者として看病している幸人。
寝ているらんるの頬にそっと手を添える。
・・・彼女に何かあったらと思うと、ぞっとする・・・・
そんなこと思いながら頬に添えた手で乱れた髪をなでる。
幸人は障子の向こうに気配を感じ、手を外す。
「誰だ?」
障子が開くとそこにはケラトの姿。
「・・・幸人さん、ご主人様がお呼びですケラ」
「わかった、ケラト。らんるを頼む」
「わかりましたケラ」
幸人はケラトと入れ替わるように部屋を出た。
ブラキオの部屋の障子を開けるとアスカ達とブラキオが険しい顔で話し合っていた。
「どうですか、姫様は・・・」
「眠っている」
「それは良かったです。ところで先ほど姫様を襲った忍びが落としていった物が・・・」
凌駕は懐から白い羽根を取り出す。
「・・・・羽根か?」
「ええ・・・」
「これは・・・・」
「ブラキオ、何か知っているのか?」
「はい、これはトップゲイラーの羽根ブラ」
「トップゲイラー?」
「最強にして、最悪な忍びブラ」
「そんなに強いのか?」
「はいブラ。トップは以前は我らと仲間だったブラ。
しかし彼は強いが為殺戮を好み、平和を愛する我らから離れていったブラ」
「・・・・抜け忍ですか」
「やはり仲代壬琴の・・・」
「・・・だろうな・・・厄介な奴が出てきたな」
その頃仲代家の奥座敷。
庭を見ながら酒を飲んでいる壬琴。
風がないのに木が揺れる。
しかし、壬琴は視線を送ることもなく酒を飲み干す。
「・・・トップか・・・首尾は」
「・・・邪魔が入り打ち損ねた」
「誰だ」
「あの女は幸人と言っていたが・・・」
「・・・ったく・・・まあいい。策は講じてある」
壬琴はにやりと笑い、酒を飲み続けた。
すっかり日も暮れてしまった頃、らんる達は城に戻った。
城の前に着くとらんるは幸人たちの方を振り向く。
「いい、じいには心配かけたくないから何事もなかったように振舞うのよ」
「心配かけたくないというよりも城下に出られなくなるのが心配なんじゃないのか」
「ふふふ・・・わかった?」
らんるの顔から笑みが零れる。そのいつもの笑みが戻ったらんるを見て皆一安心する。
らんる達が城の中に入ると案の定杉下が待っていた。
らんるは帰りが遅くなったのをしかられると思い、ひやひやしていた。
しかしらんるの心配は取り越し苦労に終わる。
杉下の表情は笑顔だったからだ。
「姫、やっとお戻りなられましたか」
「じい、遅くなってごめんなさい」
「そんなことより、いい知らせですぞ」
ものすごい展開にしてしまって申し訳ない。