お江戸物語(仮)〜看病〜
お江戸物語(仮)〜看病〜
凌駕たちが部屋に入るとらんるは内掛けを羽織り笑里に支えられて身体を起こしていた。
「姫、大丈夫ですか?」
先に入った凌駕はらんるの側によって尋ねる。
「凌駕、心配かけました。もう大丈夫」
まだ赤みのない顔で薄く笑顔を浮かべる。その笑顔はまだ痛々しい。
「まだ無理をしないほうがいい」
らんるは懐かしい声に凌駕の後ろに視線を持っていくとそこには幸人の姿があった。
「・・・・三条殿・・・・」
そう呟くと直ぐに視線を幸人から外す。その仕草に幸人の心は痛い。
「申し訳ありません。私が三条殿をお連れしました。」
アスカはそう言うと深々と頭を下げる。
「・・・・アスカ」
「三条殿ほど名医はいらっしゃいません。
姫様にもしものことが起きてしまったら我々は・・・・お許しください」
「・・・ありがとう、アスカ。それほど私の事を心配してくれて・・・・
三条殿、礼を申します」
「礼などいい。今中、早く姫を横に・・・」
「はっ、はい」
笑里はらんるの内掛けをとりらんるを横たえようとした時、障子が勢いよく開く。
「らんる姫、大丈夫か!?」
壬琴が入ってくる。
しかし壬琴はらんるの様子を見て、一瞬表情を曇らせるが直ぐに
心配している素振りをみせ、らんるの側に行き座る。
「心配しましたぞ、我が妻になる姫に何かっては大変・・・」
「・・・もう大丈夫です、壬琴様」
「さ、早く横になられた方がいい」
そう言うと壬琴は笑里をどかすとらんるの肩を持ち、ゆっくりと横たえると
渋い表情の凌駕たちに視線を移す。
「さあお前達も部屋から出て行け。俺が看病をする」
壬琴は話している最中、凌駕たちの中に幸人を見つける。
「三条じゃないか。なぜお前がここにいる。早く出て行け」
そう言われた幸人はキッと壬琴を睨む。
「あんたに何を言われようと俺は出て行かない。改めてここの藩医として呼ばれたんだ」
「ふっ、馬鹿な」
「・・・いいえ、壬琴様。三条殿はこの城にいて頂きます」
「!?」
幸人はらんるの言葉に驚きを隠せない。
自分がらんるにした事を思うと、追い出すのではなく壬琴から自分を守ってくれたからだった。
「らんる姫、医者なぞあいつ以外に大勢いますぞ」
「私は三条殿に診ていただきたいのです、いいえ、ぜひいてほしいのです」
らんるの必死さに壬琴はうろたえる。
その様子を見ていた凌駕たちはほくそえんでいた。
「わかったか。医者として言う、この部屋から出て行ってもらおうか」
その言葉を合図にするようにその部屋にいた全員が一斉に壬琴を睨みつける。
「・・・・わかった」
その視線に耐え切れなくなった壬琴はすごすごと部屋を出て行った。
壬琴が出て行った後、らんるの部屋では歓声に近い声が上がる。
「やりましたね、幸人さん」
「・・・ああ」
「あんな壬琴様見たことないです」
アスカと凌駕は幸人の肩を叩きながら喜ぶ。
「ひめねえさま、よかったね」
舞は再び笑里に支えられて身体を起こしたらんるの手を握る。
らんるは舞の手を外す。
「三条殿、姫様を頼みますね」
「ああ、そろそろ本当に休んだ方がいい。お前達も部屋を出ろ」
「あ、はい。では姫様失礼します」
アスカ・凌駕・舞・笑里はらんるに頭を下げ、先に部屋を出いていった。
幸人とらんるの二人きり。
部屋には沈黙が流れる。
「・・・・幸人さん」
少し離れて座っていた幸人にらんるは声を掛ける。
「どうした?俺がいては眠れないなら出て行くが」
「ううん、なんだか目が冴えちゃって」
「だったらこの薬を飲むといい」
幸人はらんるを抱き起こす。
・・・愛しい。
今にも壊れそうならんるの肩を抱けば幸人はそのまま抱きしめたい衝動に駆られる。
このままいっそ抱きしめてしまえばどれほど楽か。
幸人はその思いを握りこぶしに込め、封印をする。
幸人はらんるの側においてあった薬湯を飲ませる。
らんるは飲み込むと直ぐに舌を出す。
「・・・苦い」
「我慢しろ。これで眠くなるはずだ」
らんるを横たえると幸人はまた直ぐに彼女から離れる。
まだ、自分を見ているらんるにどうしても聞いておきたい事があった。
「・・・・らんる」
「・・・・なに?」
「なぜ俺をあいつから庇った?」
「・・・・舞ちゃんが泣いていたから」
「・・・・舞が?」
「そう、舞ちゃんが一緒にいたいって毎日泣いていたから」
・・・ううん、本当は私が泣いていたから・・・・
・・・想いは受け止めてもらえなかったけどあと数ヶ月だけでもあなたと過ごしたい・・・
「・・・・そうか」
幸人はらんるの気持ちを知ってか知らずかため息交じりにそう答えた。
しばらくするとらんるからは寝息が聞こえてきた。
幸人は音を立てないようにらんるの部屋からそっと出て行った。
その頃、壬琴はリジュエルの部屋で酒を浴びるように飲んでいた。
家臣の前で馬鹿にされた事にかなり頭にきていた。
酒を飲み干すと、杯を柱に投げつける。
リジュエルルは荒れている壬琴を傍らに座り新しい杯を渡し勺をする。
「ミコ様、どうしたの?」
「うるさい!!」
「お姉さまのところで何かあったのね?」
「・・・・三条幸人・・・絶対許さん」
「ねえ、ミコ様。婚儀まで待たないで早くお姉さまをやってしまえば?」
「それもいいが、今殺しちゃ俺がやったって直ぐにばれるだろ?」
壬琴はリジュエルの顎をくいっと持ち上げ、己の側まで持って来る。
「・・・そうね」
リジュエルはほくそえむ。
壬琴はリジュエルの体勢を変え、後ろから抱く。
そして首筋に口付けを落としながら耳元で囁く。
「それとも、お前がやってくれるか?」
「え!?」
「そうしたら俺と直ぐにでも結婚できるぜ」
「・・・・結婚・・・・」
「ああ、これをらんる姫に薬湯に入れればいいんだ」
壬琴は懐から赤い包み紙を出す。
「・・・・・」
「やっぱり怖いか?」
「いいえ、あなたのためなら」
「ふっ・・・かわいいなお前は」
壬琴はその包みをリジュエルの手の中に収める。
そのまま壬琴はリジュエルを抱いた。
「・・・・城主。なぜ手間のかかることをする」
リジュエルがらんるの部屋に行って直ぐ、天井から声が聞こえた。
「簡単なこと。リジュエルを殺す名目ができる」
「直ぐにばれるだろう?」
「らんる姫が死んで、リジュエルと婚儀を挙げて直ぐに
あいつが姉君をやったとわかれば、リジュエルを殺せる。
そして俺は晴れてこの藩の城主だ」
「・・・くだらんな」
「まあいい。お前には三条をやってもらう」
「わかった」
壬琴は何かの気配に気付いたのか障子に視線を向ける。
「誰だ!!」
何も返事は戻ってこない。
壬琴は障子を勢いよく開けたがそこには誰もいなった。
「・・・気のせいか」
そういうと部屋の中に戻っていた。
しかし木の陰にはリジュエルと一緒に行ったはずのマホロがプテラに庇われ身を潜めていた。
「・・・・プテラ。早くこのことをアスカに」
「わかったプラ。あなたも気をつけるプラ」
「ええ、わかっているわ。さ、はやく」
リジュエルはらんるの部屋の前にいた。
手には壬琴から渡された赤い包み紙。
「・・・・ミコ様と婚儀を挙げるため」
リジュエルは部屋に入ると寝ているらんるを見下す。
「お姉さま、悪く思わないでよ。やっぱりあの人は譲れないわ」
そう呟くと薬湯の中に薬を入れるとそのまま出て行く。
パタンと障子が閉まる音がすると直ぐに別の障子から幸人とアスカが入ってくる。
「幸人さん」
「ああ、直ぐにその薬湯を」
「はい」
アスカは直ぐにその薬湯を下げ、新しい物と変えると二人はらんるの部屋を出て行った。
「プテラが知らせてこなければ、どうなっていたことか」
「本当だな。仲代の奴、ここまでやるとはな」
「ええ。リジュエル様で使うなんて・・・恐ろしい男です」
「姫には何も話すなよ」
「わかってます。リジュエル様がこんなことをされたなんてお知りなったらどうなるかわかりませんから。
それより、幸人さんも気をつけてください」
「ああ、さっきのことでかなり頭に来ているらしいからな」
「そうです。何かあったら直ぐに呼んで下さい」
「わかった」
そういい終えるとそれぞれの部屋に戻っていった。
数日後、幸人達の献身的な看病でらんるの体調は戻り幸人がいた時の様な表情が戻ったように見えた。