優しい音色
チャリティーコンサート会場の地下で繰り広げられたメルザードとの戦いも蘭とソフィーの活躍で幕を閉じ、静かにコンサートの幕が上がろうとしていた。
蘭はフリオから貰ったケーナで、そしてソフィーはバイオリンで出演する。
コンサートのトリに天才バイオリニストが出演するとあって会場は多くの観客で埋め尽くされていた。
野外のため、パイプいすで座っている観客の周りに二重三重の人の輪が出来ていた。
蘭とソフィーの2人は舞台の裏で出番を待っていた。
ソフィーは場慣れしていて、リラックスしていたが、蘭の方はかなりあがっていた。
舞台で演奏することよりもフリオが見に来てくれることで。
「蘭、リラックス。さあ出番よ」
ソフィーは両手でケーナを持っている蘭の肩をそっと叩く。
蘭はソフィーの方を振り返らず、顔面蒼白で舞台を凝視して首を縦に何回も振り、そのまま舞台へとあがる。
蘭は手と足が一緒に出るようにマイクの前に行き、挨拶をし観客を見回す。
そこには甲平と健吾が蘭に手を軽く上げ、にっこりと笑う。
その姿に少し緊張の糸が緩んだ蘭はフリオの姿を捜す。
しかし彼の姿はあまりの観客の多さで捜しきれなかった。
『もし来ていれば、彼は私から見える位置に必ずいるはず。
その姿が見えないのだから、彼はきっと日本にこれなかったのだろう。
彼も私と同じビーファイターなのだから。』
とそんな思いが蘭の心をよぎる。蘭は探すのを諦め、ケーナを吹き始める。
南米の彼にこの演奏が届くようにと思いを寄せて・・・。
全ての演奏が終わり、蘭とソフィーは先ほどいた舞台裏ではなしていた。
そこに甲平と健吾が並んでやってきた。
「蘭!ソフィー!」
甲平は何時もの大きな声で二人を呼ぶ。
健吾はそんな甲平に苦笑しながら
「2人とも良かったよ」
落ち着いた声で2人に声を掛ける。
蘭とソフィーは笑顔で顔を見合わせて
「有難う!!」
と並ぶ二人に礼を告げる。しかし蘭はすぐに沈んだ表情で俯く。
ソフィーは落ち込んでいる蘭の肩に手を置き、
「残念だったわね」
と蘭に慰めの言葉を掛ける。蘭は寂しい笑顔で頭を振り、顔を上げる。
「南米支部で急な仕事が入っちゃたんだよ。仕方が無いよ」
と甲平と健吾にくるりと背を向け、ケーナをぎゅっと握り締める。
甲平と健吾は笑顔で顔を見合わせる。
ソフィーは2人の笑顔に疑問をもち、小首をかしげて二人を見る。
しかしその疑問のすぐに解け、笑顔になる。
「蘭」
みんなに背を向けていた蘭は聞きたかった声で自分の名を呼ばれ驚いたように振り返る。
そこには会いたかった人、甲平と健吾の間に挟まれたフリオのはにかんだ笑顔があった。
「フリオ!」
蘭は驚きと喜びの声で彼の名を呼んだ。
健吾の横に移動した甲平はフリオの肩にぽんと手を乗せ、顔を見て蘭に説明し始める。
「コンサートが終わって、ここに来ようとしたらいたんだぜ。びっくりしたよ」
「そうだぞ、蘭。フリオが来ることぐらい教えろ。」
健吾はたしなめるように蘭に言う。蘭は肩をすくめ、
「来れるとは思わなかったんだもん」
と言って俯く。
「約束破らないよ、蘭。演奏もこの耳で確かに聞いたし」
フリオは優しい笑顔で蘭を見詰める。蘭は訝しげフリオに視線を送り、
「でも姿が見えなかった」
その言葉にフリオはくすりと笑い、蘭にそのときの状況を説明し始める。
「俺がここに来た時はもう人でいっぱい。その立っている人たちの後ろで蘭の演奏聞いた。
それで舞台の後ろに来ようとしたら甲平達に会った」
フリオの言葉に蘭は花が咲いたような笑顔になる。
「どうだった?フリオ」
「とても上手だった。それにとても優しい音色だったよ」
蘭はその言葉に天にも上るような気持ちだった。
その時ソフィーが後ろから蘭の両肩をポンと手を置き、笑顔でフリオの顔を覗き込む。
「だって、蘭はロマンスで演奏したんですもの」
その言葉に蘭は顔を赤面して俯き、フリオはきょとんとした顔をし、甲平と健吾は苦笑する。
「なんだい?ロマンスって」
「フリオは解らなくていいの!!」
蘭は慌ててフリオの身体を来た方向に向かせ背中を押していく。
その様子を見ていた3人は大きな声をあげて笑った。
『駆け抜けろ 恋の迷宮』の後の話として書きました。この回では蘭がフリオの事が好きなことが判明します(笑)
フリオから演奏を聞きに来るという手紙が来て、最後までフリオが出てこなかったのでだったら出してあげましょうと
ゆうこのおせっかいで書きました。
ところで、フリオからの手紙、達筆な日本語で書いてあるんですよ。フリオ、あんたは南米のお人だろ。