あなたからのめーる


「じゃあね。」
「ああ」

その日、七海は仕事が一鍬の仕事場である工事現場の近くであり、昼休みに遊びにきていた。
時間だからと去る七海を一鍬は見送った。

「お前の彼女か?かわいいな」

ふいに声が掛かり一鍬は振り返った。
そこには一鍬の現場の先輩である男が立っていた。
一鍬は少しはにかみながら

「ええ」

とだけ答えて仕事に戻っていく。
しかし、先輩の男は七海の後ろ姿をしばらく見ていた。

夕方一鍬は仕事が終わり更衣室でいつもの服装に着替えた。
その時一鍬は七海から持たされていた携帯を落としていることに気付いていなかった。
そして何時ものように挨拶だけして現場を後にした。
あとから更衣室に入ってきた先輩の男が一鍬の携帯に気付いた。 「あ、これあいつの。」

その男の嫉妬心に突然火がついた。あいつの彼女がほしいと。
一鍬の携帯はその男の物と一緒だったので使い方は知っていた。数少ないメモリーの中から、七海選んでメールを送った。

「6時にさっきの現場にきてほしい」

ピッピッピ、七海の携帯が鳴った。七海は携帯を見てメールの相手を確認した。

「え、一鍬から?」

少し驚いたが一鍬の携帯から送られてきたメールなので疑いもなく見た。

「6時か、少し時間があるからお茶してからいきますか」

 七海は嬉しかった。なにせめったに送ってこない相手のメールに。
以前にメールの仕方を教えてはいたが、「面倒だ、そんなこと話せばいいだろう」と一蹴されてしまったことがあった。だから余計に。
これから一鍬とどこに行こうと考えつつ、時間をつぶしの為の喫茶店に入っていった。



一鍬は一甲と住んでいるアパートに向かっていた。今朝、一甲が

「俺の方が早くあがるから夕飯は作っておく。」

といったのを思い出しふいにポケットに手をやる。

『ない、携帯が』

ぱたぱたと体中触る。やっぱりない。どこに落としたかと考えを巡らせ、さっきの現場を思い出す。

『きっと、着替えている時に落としたのだろう。まあ、明日もあの現場だからあしたでいいか』

と思った一鍬だが、ふと七海の顔がよぎる。
約束をしてないが、毎晩携帯に七海から 電話が入る。
もし、今日連絡がつかなければ、明日七海にどやされるなと思った一鍬は ため息混じりにチェンジャーで一甲に連絡を入れる。

「兄者か、忘れ物を取りに戻る。先に食べていていくれ。」

一鍬は今きた道を戻り始めた。



6時。七海は人気のない現場にきていた。あたりを見回すが、一鍬の姿はない。
管理事務所の明かりが目に入る。
きっと一鍬は中で待っているのだろうと事務所の 扉を開けた。
そこにはメールを送った男がいた。

「すいません、霞さんいらっしゃいますか?」
「霞?今いないよ。七海サンだっけ、待ち合わせでしょ?寒いから中で待ってなよ。」

七海はなぜ知っているのだろうと思いつつ頷き躊躇無く事務所の中に入った。
七海は窓から外を見ながら一鍬が来るのを待っている。そこに男が近づいてきた。

「霞なら来ないぜ。そのメール、俺が霞の携帯から送ったんだよ」

男は一鍬の携帯を七海に見せる。七海はその携帯を取ろうとしたが、かわされ逆に
手首を取れてしまい壁に追い詰められる。

「なあ、霞なんかやめて、俺の女になりなよ」

男の顔が七海に近づく。突然、

バン

二人は扉の方を見た。そこには般若の形相の一鍬が立っていた。
そして疾風のごとく、男を七海から離し殴りつける。

「俺の女だ!失せろ、殺されたくなければな」


男は一鍬の殺気に恐れをなして出て行こうとした。
 その時一鍬が男の肩に手を掛け、 「俺の携帯、返してもらおうか」

男は慌てて持っていた携帯を返し、出て行った。
一鍬は呆然としている七海の肩に手を掛け、先ほどとは違う穏やかな声で話し掛ける。

「大丈夫か?」
「え、う、うん」

我に返った七海は満面の笑みで答えた。

「送っていこう。」

七海の肩を抱きながら、事務所を出て行った。



七海のアパートへ向かう道すがら、一鍬は七海に聞いた。

「なぜ、あの時間にあそこに来た?」
「メールが来たから・・・」
「?めーる?、俺は送ってないぞ」
「一鍬の携帯から発信されてたの。でもあいつが送ったんだって。さっき言ってた。
  私も馬鹿だね。こんなメール信じちゃって。」

七海は俯いてしまった。一鍬は七海の頭を撫でた。

「でも、ちょっと、嬉しかったんだ。最初はほんとかと思ってたから・・・」
「悪かったな、俺が携帯を落としたばかりに。いやな思いをしただろう?」
「ううん、大丈夫。でも嬉しかったよ。俺の女だっていってくれて。」
「つ、つい口がすべってしまったんだ。」

一鍬は顔を真っ赤にして俯いてしまった。七海はそんな一鍬の腕に絡みつき、アパートに向かった。



ピッピッピッピ・・・。

夜Cの携帯のメール着信音が鳴った。七海はそのメールを見て、驚いた。

なんと一鍬からだった。メールを見た七海はクスリと笑った。それはたった5文字だけのメール。

『あいしてる』

一鍬が一生懸命メールを打っている姿を七海は容易に想像が出来た。たった5文字にどれだけ時間を掛けたか。
最初で最後かもしれない『あなたからのめーる』 消さないように。ちゃんとロック掛けなくちゃ。



The End




人生初めて書いたSSです(←そんな事言える代物ではありませんが・・)
改めて読み返してみて、穴を掘って入りたいです(笑)