ホワイトデーのうちに


午後11時45分

・・ピッピッピッピ・・・

「はい、あぁ七海、どうしたこんな夜遅くに」
「・・・一鍬なんて大嫌い!」

ガチャ。

一鍬は携帯を耳に当てたまま、固まっている。

「なぜ、突然あのような事を言われなければならない」

一鍬は記憶を総動員させ言われる原因を考える。自分でも何かを忘れているような・・・

一鍬は思い出したようにカレンダーを見る。3月14日。ホワイトデーだ。

『来月の14日はホワイトデーだからね、忘れないでよ』

一鍬はチョコをもらって有頂天だったため、その時はほとんど覚えていなかったが、その後も七海にしつこく言われつづけて覚えさせられた。

一鍬は慌てて上着を羽織、部屋を飛び出していった。



七海は自分の部屋で携帯を見ながらかなり憤慨していた。

「もう、一鍬ったらあんなに言っといたのに、忘れるなんて」

やけ食いとばかりに他の三人からもらった大きな缶のクッキーを食べ始める。

「他の3人はちゃんとくれてるのに・・・」

七海はクッキーを頬張りながら、頬を伝う物を感じた。

「なんか、馬鹿みたい」

忘れたからって好きという気持ちは変わらないけど、やっぱりこういうことはちゃんとしてほしいな・・これって私のただの我がまま?でも女の子だったら嬉しいよね?

七海は自問自答しながら時計を見る。

午後11時50分

・・・ピッピッピッピッピ・・・

「はい」

七海は少しむくれた声で出る。

「あっ、俺だ。これから行く」

ガチャ。

「もう、間に合わないじゃない。ホワイトデーに」

七海は携帯を見ながら、話す。

・・・間に合わない・・・

七海は何かに思いつき、ベッド脇に置いてある時計を手にとる。



七海の部屋へ行く途中、一鍬はコンビニで小さな花束を買う。赤いバラのシンプルな物を。

おもむろに店の時計を見る。11時55分を指していた。七海の部屋はどんなに急いでも10分は掛かる。

「もう間に合わないか。しかし七海に会って謝らなければ」

店を出た一鍬は手に花束を持ち急いで向かった。



コン、コン

七海はノックの音に気付き、ドアを開ける。そこには肩で息をしている一鍬の姿があった。

「はぁはぁ・・遅れて悪かった、七海。これ」

一鍬は持っていた花束を七海に突き出す。七海は驚きつつも、花束を受け取る。そして

その花束を胸に抱き、満面の笑みになる。

「有難う、うれしい。さあ、中に入って」

一鍬は疑問に思いつつ中に入り、テーブルの脇に座る。
七海は鼻歌交じりで花束を花瓶に生け、お茶の用意をしている。
そんな七海に一鍬は疑問をぶつける。

「怒っていないか?七海。ホワイトデーに渡せなかったのに」

七海は湯飲みを載せたお盆を持って一鍬の横に座る。

「怒ってないよ、一鍬。だってまだ日付変わってないもん。」

とベッド脇の時計を指差す。

11時55分。

一鍬は目を疑う。そして自分の携帯を見る。確かに12時は超えている。

「どうして?」 「どうしても14日にもらいたかったから。本当の時間は戻せないけど、私たちの時間は少しぐらい戻せるでしょ?」

七海は一鍬に体を預ける。一鍬はそんな七海を愛しく思え、胸の中に収める。

「でもこれは今年だけ。来年は忘れないでね」
「ああ、来年は絶対に・・」

お互い顔を見合わせ、小さく笑う。そして、どちらともなく唇を合わせる。



End






ホワイトデーの時期に書いたお話です。
絶対に一鍬君はこういうイベント事に疎いと思って(汗)書いてみました。