母への手紙
春、よく晴れた日。
一鍬と七海は以前一鍬が住処にしていた洞窟で掃除をしていた。
霞兄弟はジャカンジャとの戦いが終わってからすぐに街にアパートを借りて住んでしまっている為、今はこの洞窟には誰も住んでいない。
しかし、引越しがあまりに急だったので、荷物を整理する為一鍬は七海を連れて洞窟へやってきていた。
「七海、悪いがその棚にあるものを捨てておいてくれ。」
「全部捨てていいの?」
「ああ、必要の無い物ばかりだ。」
「うん、わかった」
一鍬は七海からは見えない所へ行ってしまい、七海は一鍬に言われた通り、棚の物を取り出し、ごみ袋へと入れていた。
一冊の本を棚から取り出したとき、四つに折られた紙が落ちてきた。かなり古い物であろう、その紙はかなり変色していた。
七海はその紙を拾い上げて、広げてみた。そこに幼い字で『おかあさんへ』と書かれていた。七海は興味本位で読み続けた。
『おかあさんへ
げんきですか? おれはげんきです。いまおかあさんはどこにいるんですか。
とてもおかあさんにあいたいです。ほかのこにはおかあさんがいるのに
どうしておれにはおかあさんがいないのですか?
とうさんやあにじゃにきいてもおかあさんはにんむにいっているとしかおしえてくれません。
ほかのひとにきいてもおしえてくれません。
はやくかえってきてください。おかあさんのかおがみたいです。
おかあさんのごはんがたべたいです。でもがまんしてまってます。
はやくにんむをおわらせてかえってきてください。
いっしゅうより』
それは幼い一鍬が書いた誰に出す宛も無い手紙だった。きっと幼い一鍬の涙の後であろう、手紙にはにじんだ後がある。
その手紙を読んだ七海は涙の後を指でなぞり涙していた。
七海は一鍬から母親は物心つく前に無くなったことを聞いていた。
まだ、何もわかっていなかった一鍬が母親にこのような手紙を書くなんて、とても寂しかったのだろうといまさらながら想う。
興味本位で読んでしまった事にとても後悔し、その手紙をそっと自分のポケットに入れる。
「終わったか、七海?」
背後から戻ってきた一鍬の優しい声が掛かる。七海は涙を拭うことなく、一鍬の方を振り返る。
一鍬は涙を流している七海に驚く。一鍬は慌てて駆け寄り、七海の涙を親指で拭いながら声を掛ける。
「どうしたのだ、何かあったのか?」
「・・・ううん」
七海は薄い笑みを一鍬に向ける。
「では、なぜ泣いていた?」
至極当たり前のことを七海に尋ねる。しかし七海は答えることが出来なかった。
幼い一鍬が書いた母親への手紙を読んだことを。七海は答える代わりに自分から一鍬に抱きつく。
「一鍬、お願い。強く抱いて」
一鍬は突然のお願いに戸惑うが、それが望みならと七海の小さな身体を強く抱きしめる。
しばらくその状態が続いたが、七海は一鍬の胸の中でおもむろに口を開く。
「ねえ、一鍬」
「なんだ?」
「私、一鍬のお母さんにはなれないけど、いない寂しさを埋めることできたかな?」
一鍬はその言葉になぜいまさらと思いつつ、優しく答える。
「ああ、もう十分埋めてくれた。もう、お前のいない人生なんて考えられない」
七海はその言葉に安堵し、一鍬の腰に廻してる腕に力を入れる。
「私も一鍬のいない人生なんて考えられない」
そんな七海を愛しそうに一鍬は抱き返した。
2人は本来の目的の掃除をわすれて、しばらくの間抱き合っていた。
久しぶりの鍬七です。(一ヶ月ぶり)
テレビで『一休さん』という昔やっていたアニメのEDの歌を聴いたら、降って沸いてきました。(←知ってる人いるかな?ちなみに修行してる一休さんが母親に書いた手紙の歌です)
手紙を書いた頃は5〜6歳位を設定したので、全部ひらがなで。一鍬の寂しかった思いを表せたらいいな〜