かんざし〜一鍬v七海編〜
ある晴れた日、七海は一鍬の部屋に来ていた。
別に頼まれたのではないが、部屋を掃除していた。
一鍬は最近兄から独立をし、小さなアパートを借りて一人暮らしをしてた。
最近仕事と任務が忙しく、掃除もままならない状態であった。
その話を一鍬から聞いた七海は仕事がオフの今日に午後から一鍬の部屋に来て、
洗濯やら掃除などをして過ごしていた。
しかし部屋が一鍬が言うほど汚れてなく、本が数冊、床に落ちている程度だった。
七海はその本を拾い、戻そうと本棚に行くと、
隣に置いてあった背の低い棚の引出しが開いているのに気付く。
七海は本をしまい、その引出しを閉めようと視線を向けると中に長方形の桐の箱を見つける。
七海はその箱を手に取り、開けてみる。
その中には華やかではあるが決して派手ではない、白い花に金色の房がついた簪が入っていた。
七海は思わずその簪を手に取り、まじまじと見る。
以前は着物を着て演歌を歌っていた七海である、多少なりとも簪には興味があった。
「・・・きれい・・・」
七海は溜息混じりに呟く。
そして一鍬がなぜこのような簪を持っているのか疑問に思いつつ、簪をしまい、
引き出しに戻しパタンと閉めた。
七海は差ほど気にもとめず、今夜の夕食をどうしようかと考えながらキッチンへ向かった。
夕方、この部屋の主である一鍬も仕事から戻り、七海が作った料理を本当においしそうに頬張った。
七海はそんな子供のような一鍬を笑顔で見ながら、楽しいひと時を過ごした。
食事も終わり、お茶を飲みながら2人は雑談をしていた。
七海はテーブルの向かい側に座っている一鍬の後ろに先ほどの引出しがあるのに気付き、視線を向ける。
一鍬はその視線に気付き、七海に尋ねる。
「どうした?七海」
「ううん、なんでもない」
七海は引きつった笑顔で首を振る。
「嘘をつくな。隠しても顔にすぐ出るからな。言わないのなら割らせてみせようか」
一鍬は秀麗な顔を七海の目の前まで持ってくる。
七海は少し顔を引き、指で引出しを指す。
「あの棚に簪があるのを見たの」
一鍬は身体を戻し、棚から簪の入った箱を取り出す。
「ああ、これか」
「どうしたの?これ」
一鍬は箱を持ち、蓋を開けながらにやりとして答える。
「これは昔大事な女からもらったんだ」
「ふーーん。え!誰よだいじなおんなって」
最初は聞き流していた七海は『大事な女』と言う言葉に反応して思わず、一鍬の胸座をつかんだ。
そして、掴んだ胸座を前後へと動かす。
「まあ、落ち着け。冗談に決まっているだろう。」
一鍬は自分の胸座をつかんでいる七海の白い腕を掴み戻す。
一鍬はごほんと一つ咳払いをして、肩で息をしている七海に話し掛ける。
「これは俺の母親の形見だ」
「お母さんの・・・」
「ああ、俺が持っている唯一の形見だ。なんでも母親が親父との結婚式で着けていたものだ。
あの親父が母親にこれを渡して結婚を申し込んだらしい。あの親父がな・・・」
一鍬は簪を手にとり、寂しい笑顔を浮かべる。
「ごめんなさい」
七海は一鍬の顔を見て謝らずにいられなかった。
一鍬は別段気にする様子も無く
「冗談で言ったのに本気にしては困る」
笑顔で答える。そして一鍬は簪を七海の目の前に置く。
七海は目の前に置かれた簪を手に取る。
「この簪の話を聞いた時、俺も一緒になりたい女にこれを渡したいと思っていた。それで今まで持っていたんだ。
やっとその思いが遂げれる。」
「え?」
胡座をかいていた一鍬は正座に座り直してまっすぐ七海を見る。
「まだ先かもしれぬが、俺と一緒になってくれ。七海」
七海は突然のプロポーズにずっと待っていたとはいえ驚いて固まってしまう。
「七海、だめか?」
七海は困ったような一鍬の声に我に返り、満面の笑顔で答える。
「じゃあ、結婚式にはこの簪をつけさせてもらうね、一鍬」
「と言うことは・・・・」
「もう、わかってよ、意味ぐらい」
「いいんだな」
「宜しくお願いします。」
七海は一鍬にぺこりと頭を下げる。一鍬も慌てて頭を下げる。
「こちらこそ宜しく」
2人は同時に頭を上げ、目が合いくすくすと笑いあった。
やっと書けました。前回に続きまた母親ネタで申し訳ない(涙)
本当は『藤』で書きたかったんですけど、思いつかなくて・・・
先に書いていたアバレで簪が出てくるのでこちらに変更
そうしたら出てきました。次回も頑張ります。