かんざし〜幸人vらんる編〜
恐竜やのお昼を過ぎそれほど忙しくない時間。
凌駕とアスカはテーブルの上をふきんで拭いたり、食器を洗ったりとせっせと働いていたが、
幸人は相変わらずカウンターに座り、コーヒーを飲みながら、2人の働く姿を見ていた。
「幸人さんちょっといい?」
背中かららんるに呼ばれ、幸人は振り返る。
「何だ?」
「ちょっと来て」
らんるは幸人の腕を掴み、ぐいぐいと店の奥へと連れて行った。
凌駕とアスカは顔を見合わせ、奥を覗き込む。
そこにはらんるが幸人に耳打ちして、手を合わせている姿があった。
幸人は腕を組み、少し呆れた顔でらんるを見ていた。
そして幸人が口を開いたかと思うと、らんるの表情が明るくなったのを感じ取れた。
奥を覗いた2人はますます疑問符が頭の上を飛んでいた。
でも何か見てはいけないものを見たような感じもして・・・。
慌てて2人は自分の仕事に戻った。
「ちょっと出かけてきます」
奥から出てきたらんるは幸人の後をついていきながら、凌駕に笑顔で言って店を出て行った。
「お2人はどこにいったんでしょうか?」
「さあ?」
二時間後、2人は何事も無かったように店に帰ってきて、何時ものように働いていた。
・・・・二週間後。
「いくぞ」
幸人はかたづけをしているらんるにそう声を掛けた。
らんるもその言葉に明るい表情で答え、
「凌駕さん、出かけてきます。」
言われた凌駕は前回も行き先も告げずに出かけた二人に聞いても野暮かなと思いつつ、思い切って尋ねる。
「どこに行くの?らんるちゃん」
「内緒♪」
らんるは幸人の腕に絡みつき、「ねー」と幸人の顔を覗き込む仕草をする。
幸人はその行動にすっかり呆れて見上げる。
驚いた顔の凌駕とアスカを尻目に2人は店を出て、目的地まで歩いていく。
「ばかか、お前は・・・・」
「いいじゃない、だってデートだもん」
「勝手にしろ」
まだ腕に絡み付いているらんるを愛しく思っているのを
悟られないように幸人はそんな言葉を口に出す。
らんるも幸人の性格が手にとるようにわかっている為、くすくすと小さく笑う。
しばらく歩いた二人は目的地である店へと入っていった。
らんるは店の主人から頼んでおいた品物を受け取り、出されたお茶をすすって店の従業員と話していた。
後ろにいた幸人は何もすることが無く、ただ店の中を回っていた。
しかしあるコーナーに差し掛かるとその眼差しは一点に集中した。
その時
「幸人さん、帰りましょう」
と声が掛かる。幸人はその声に我に返り、らんると一緒に店を出た。
「ありがとう、幸人さん」
らんるは大きめの箱を抱えながら、隣を歩く幸人に礼を言う。
幸人は心ここにあらずという感じで
「ああ」
と生返事をする。そして突然、幸人は踵を返す。
「幸人さん、どうしたの?」
らんるは幸人の方に振り返り、尋ねる。
「用がある。先に帰れ」
幸人はそう残すとどんどん歩いていってしまった。
らんるは少し頬を膨らませ
「夕飯までには帰ってよ」
と幸人の背中に声を掛け、恐竜やへと戻っていった。
幸人は先ほどの店に戻り、従業員に声を掛ける。
「これをくれ」
夕食の時間。
幸人とらんるも少し前に店には戻ってきていて、準備を手伝う。
そして準備も整い皆食卓に着き食事を始めようとした瞬間、らんるが口を開く。
「今日は舞ちゃんにプレゼントがあるんだけど・・・」
舞はその言葉を聞いて目をきらきらと輝かせて
「なあに、らんるちゃん」
「ハイ♪舞ちゃん」
らんるは幸人と顔を見合わせながら、大きな箱を舞に渡す。
舞は畳を上に置き、箱の蓋を取った。
「きれい」
舞・凌駕・アスカは箱の中を覗き込む。
そこには淡い紫で小花の模様が入った着物が入っていた。
舞はそれを手にとり、凌駕とアスカに見せる。
「みてみて、りょうちゃん。着物」
凌駕は舞の笑顔に
「よかったね、舞ちゃん。」
と声を掛け、幸人とらんるの方を見て
「有難うございます。三条さん、らんるちゃん」
と深々と頭を下げた。
「でもこの着物、高かったでしょう?」
凌駕は舞に着物を当てながら、二人に聞く。
「実はね、私が持っていた着物を仕立て直してもらったの。
舞ちゃん、着物持ってないようだったし、私ももうこの着物は着てないから」
とらんるは照れ笑いをする。
「私、東京の呉服屋さん知らないから、幸人さんにお願いしたの」
その言葉に凌駕とアスカは2週間前の出来事を思い出す。このことだったんだと・・・
「舞ちゃん、七五三はまだだからお正月にでも着てね」
「うん、有難う」
らんるは嬉しそうにはしゃぐ舞を見ていた。
「これは俺からだ」
幸人は舞とらんるに先ほどとは違い小さな箱の渡す。
らんるは驚いた表情で
「私にも?」
「ああ」
幸人は相変わらずの表情で一言だけ答えた。
2人はその箱を開けると舞の箱の中には藤の可愛い花簪が、
らんるの箱の中には品のいい薄い黄色の小さな花がいくつかついた簪が入っていた。
「かわいい」
らんるはかんざしを手に取りながら、呟く。幸人は何時もの仏頂面で
「正月にでもつけろ」
「ありがとう、幸人さん」
幸人の隣にいたらんるは嬉しさのあまり、幸人に抱きつき頬にキスをする。
その瞬間、幸人は赤面し、アスカはあんぐりと口を開け固まり、凌駕は舞の目を手で隠す。
舞は凌駕の指を広げ、にこにこと覗いていた。
「おい。みんながいるんだぞ」
らんるはその言葉に周りの状況を把握して赤くなる。
「ごめんなさい。つい、嬉しくて・・・」
凌駕とアスカは溜息をつき、店中に響き渡る大きな声で叫ぶ。
「「そんなことは2人の時にやってください!!」」
今回の企画で一番最初に浮かんだSS。
凌駕さん舞たんに七五三とかやってないようないようがしてね
あいかわらず、幸人さん素直じゃありません(笑)