雨
・・・・雨、その日は朝からずっと勢いよく降っている。
恐竜やではさすがに雨の日は客足が少ないので皆は出掛けてしまい、さして用事の無かったらんる独りが店番をしていた。
お昼の時間最後の客を見送った後、入り口の札を『準備中』に変え多くの無い洗い物を済ませらんるは何をすることでもなく、
カウンターに座り身体をべたりと前に倒した。
「つまんないよー。誰か帰ってこないかな・・・・幸人さん・・・」
その頃、幸人は傘も差さずにただ歩いていた。
出かけるほどの用事があったわけではないが、他の皆と一緒に外に出ていた。
理由はただ一つ。らんると二人きりになりたくなかった・・・。
二人きりになってしまうとなにをしてしまうか解らない自分がいやだったから・・・。
・・・桜色の唇、白い肌・・・すべてが欲しい・・・と思い始めた日から二人きりになる事を拒み続けた、戦う時以外は・・・。
この思いを雨の冷たさで冷やしてくれることを期待して、傘も差さずに歩いた。
かなりの時間、彷徨い続けただろうか。幸人は街の時計を見て、そろそろ皆が戻ってくる時間だろうと思い恐竜やに足を向ける。
・・・がちゃ・・・
いつの間にカウンターで寝ていたらんるは入り口の開く音で目を覚ます。
「お帰りな・・・・幸人さん!」
らんるの表情が笑顔から驚きの表情に変わる。そこには雨でずぶ濡れになった幸人が立っていた。
らんるは慌てて幸人に近寄り、店の中に入れる。
「みんなは・・・」
「まだだけど・・どうしたの、幸人さん?」
らんるは幸人の濡れているジャケットを脱がそうとファスナーに手を掛けようとすると幸人は俯いたままらんるの手を払いのける。
らんるは驚いた表情で幸人を見詰める。
「・・・ちょっと待ってて、今タオルとって来るから、上着脱いでいてね」
らんるはそういい残すと小走りで奥へタオルを取りに行った。その間に幸人は俯いて黙ったまま上着を脱いだ。
俯いたままの幸人の頭にらんるは広げたバスタオルをかけ、濡れた髪を拭こうと幸人の頭を両手でぐしゃぐしゃと動かす。
「こんなに濡れちゃって・・・・傘は差さなかったの?」
らんるは屈託の無い笑顔で幸人の顔を覗き込む。幸人は小さいな声で呟く。
「・・・・・・」
「え?幸人さんなんて言ったの?」
「・・・・なんでそんなに俺を煽る」
幸人は顔を上げ自分の頭を触っているらんるの手首を力強く掴み、タオルと一緒に頭から下ろす。
「・・・・そんな・・・痛い・・・幸人さん放して・・・・」
らんるはいつも違う幸人を目にし、恐怖を感じる。
「なんでお前は俺を煽る」
幸人は怒鳴り、らんるを奥の壁に押し付ける。そして幸人はらんるに貪るように口付けをする。
幸人は角度を変えて何度の口付けをした。らんるの唇からは角度を変える度に嗚咽が漏れる。
息すら出来ないらんるは意識が段々遠のいていくのを感じる。もう自力では立っていられない・・・。
もうだめだと思った瞬間、唇からその荒荒しい感触が無くなり、らんるは意識を戻す。
幸人は口付けをしている間にらんるの上着のファスナーを下げていた。
黒いTシャツの裾から手を入れらんるの胸を包みこみ、その白い首筋に口付けを落とす。
「やめて、幸人さん!」
らんるは抵抗しどうにか幸人を引き剥がそうとしていた。しかし女の力ではどうにもならない。
「お願い、幸人さん・・・や・・め・・て・・お・・ね・・が・・い・・」
らんるは抵抗するのを止めて涙声で幸人に懇願した。幸人はその声に我に返る。
幸人はらんるの顔を見ると顔は涙で濡れていた。幸人は自責の念にかられる。
『俺の見たい顔じゃない』と・・・。そのままゆっくりと幸人は身体をらんるから外すと
らんるはその場に座り込んで、顔を両手で覆い声を殺して泣き始める。
幸人は後ずさりし、何も出来ぬまま自分の部屋へと戻っていった。
夜更け、部屋に戻った幸人は何もする気が起きず、店にも出ずにただソファーに寝ていた。
天井を見詰めながら、あの時のらんるの顔を思い出していた。涙で濡らしたあの顔を・・。
・・・ぴんぽん・・・
部屋のチャイムが鳴り、幸人は面倒くさそうにソファーから起き上がり玄関に来る。
「誰だ?」
「凌駕です」
「何のようだ?」
「上着を持ってきたんです。・・・それに話がちょっとあります」
相変わらずの能天気な凌駕の声に幸人は頭痛を感じつつ、扉を開ける。
「はい、これ」
凌駕は幸人の青いジャケットを幸人に渡す。幸人は
「ああ」
幸人はそのまま扉を閉めようとする。その時、凌駕は閉まる扉を止める。
「待ってください。三条さん、らんるちゃんと何かあったんですか?」
その言葉に幸人は立ち止まり、ぎろりと凌駕を見る。
「なぜ、そんなことを・・」
「俺達が帰ってきたとき、店の奥で泣きはらした顔で座り込んでいたんです。
それで俺達の顔を見たとたん、そのまま逃げるように部屋に戻っていちゃったんです。
それから部屋に閉じこもりきりで・・・・。だから三条さんならなにか知ってるのかと思って・・・・。
それにその上着もあったし・・」
凌駕は幸人が持っている上着を指差す。凌駕の表情は真剣になる。
「三条さん、好きになるのはいいと思います。でも泣かせる事だけはしないで下さい。」
「お前、・・・らんるのこと好きなのか?」
「はい、好きです」
幸人には衝撃的な言葉だった。しかし凌駕は寂しい笑顔を浮かべて
「でも、らんるちゃんの心に入る隙間なんてありません。らんるちゃんの心の中にはもう三条さんがいるから・・・」
幸人はその言葉に愕然としていた。そして凌駕は真剣な眼差しで
「だからこんどらんるちゃんを泣かせたら、俺、許しませんからね。」
と言い終えると、今度は何時もの凌駕の顔に戻り
「だかららんるちゃんの様子を見てきてください。きっと彼女も三条さんのこと待っていると思いますから。」
と言い残し、凌駕は幸人の部屋を後にした。
一人玄関に残った幸人は
「どんな顔をして逢えば良いんだ?あいつに対してとんでもないことをしてしまったんだぞ」
と強く手を握り、呟く。
しかし幸人はいても立ってもいられずらんるの部屋へ向かう為部屋を出た。
